今回は、食物繊維サプリメントの効果について検証した、スタンフォード大学の研究チームによる論文のご紹介です。
スタンフォード大学による、食物繊維サプリメント摂取効果の検証
食物繊維は、腸内細菌のエサとなり、代謝系疾患やガン、心血管系の健康増進に寄与していることがわかっています。食物繊維の有効性は数多く報告されています。しかしながら、食物繊維の種類は多く、全ての食物繊維が同様な機能性を示すわけではありません。
今回、著者らスタンフォード大学の研究チームは、アラビノキシランとイヌリンのサプリメント摂取による効果を検証しました。その結果、アラビノキシランには LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)低下効果と胆汁酸の増加効果が確認されました。一方、イヌリンではコレステロール低下は確認されず、逆に、炎症の発症や、高用量では肝臓のダメージを示すマーカーが上昇したと報告しています。ただし、アラビノキシランに反応しなかった被験者もいる一方で、イヌリン摂取によりコレステロールが低下した被験者、高用量の摂取で炎症反応が軽減した被験者もいたと報告しています。
原 題 : 『Global, distinctive, and personal changes in molecular and microbial profiles by specific fibers in humans』
(和訳) 人における特定の繊維素による分子的および微生物的プロファイルのグローバルで特徴的な個人的変化
著 者 : Samuel M. Lancaster, B. Lee-McMullen, et al
掲 載 誌 : Cell Host & Microbe 30, 1-15, June 8, 2022
食物繊維は種類により機能性が異なり、すべての人に有効とは限らない
本研究は、被験者(18名)を無作為に、アラビノキシランまたは長鎖イヌリンのサプリメントを摂取する二群に分け、それぞれのサプリを最初の一週間は一日 10g(朝食時)、翌週は 20g(朝食および夕食時に各 10g)、三週目は 30g (朝食、昼食、夕食時に各 10g)摂取して貰い、その後、6 ~ 8週間のウオッシュアウト期間をおいて、最初に割り付けられたサプリとは逆のサプリを同じように摂取して貰いました。最後に、両群ともに 5種類(アラビノキシラン、イヌリン、アカシアガム、グルコマンナン、レジスタントスターチ)の食物繊維が配合されたサプリを摂取して貰いました。試験期間中、被験者は食事内容を記録し、血液、尿、便のサンプルを採取(毎週末、ウオッシュアウト 3日目、同10日目、同終了日)し、分析を行いました。
解析の結果、高用量のアラビノキシランを摂取した多くの被験者では LDL-コレステロールの低下と胆汁酸の増加が確認されました。著者らは、アラビノキシランがコレステロールに結合して排泄させるのではなく、胆汁酸の合成を促進させた結果、コレステロールが胆汁酸に代謝され、排泄されたと記しています。一方、イヌリンは多くの被験者に対しコレステロール低下は認められず、むしろ炎症反応が見られ、高用量を摂取した場合には、肝臓のダメージを示すマーカーが上昇したと報告しています。
なお、前述のように被験者により異なる結果が出ており、食物繊維は種類によって機能性が大きく異なるが、ある人には有効な食物繊維が別の人に有効であるとは限らないと結論しています。著者らは述べていませんが、腸内細菌叢の多様性がこのような結果に結びついたと推測されます。
アラビノースやアラビノオリゴ糖はビフィズス菌の好物?
この論文に関連して、鹿児島大学 農学部の藤田清貴 准教授が興味深い研究を続けておられます。
藤田博士の研究によれば、ビフィズス菌は数多くのアラビノオリゴ糖を分解する酵素を持っており、それらの酵素は、アンカー・プロテイン(錨タンパク質)で細胞表層に結合していることがわかっています。つまり、ビフィズス菌の細胞表面には複数種類のアラビノオリゴ糖分解酵素が存在しており、大腸内で、自分の近くに流れて来たアラビノオリゴ糖をキャッチし、分解して細胞内に取り込んで代謝しているのです。この代謝の結果、身体に良い作用が現れます。また、複数のアラビノオリゴ糖分解酵素を持つことにより、効率よくアラビノオリゴ糖を分解し、必要な糖を手に入れることができるのです。
つまり、アラビノースやアラビノオリゴ糖は、ビフィズス菌の好物と言えるのかもしれません。
補足 : 摂取されたアラビノースやアラビノキシランは、小腸内の腸内細菌の働きにより、色々なアラビノオリゴ糖に代謝されます。生成したアラビノオリゴ糖は大腸に移行し、ビフィズス菌などの善玉菌のエサとなります。
アラビノキシランを多く含む食品 : 全粒小麦、ライ麦、玄米、古代米(黒米、赤米)、トウモロコシなどのイネ科植物
注:本研究により得られた結果は、著者らの設定条件下におけるものであり、その他の結果を否定するものではありません。