納豆には多くの機能性成分が含まれています。その中から興味深い成分のお話をしてみたいと思います。今回は納豆を代表する機能性成分、ナットウキナーゼについてです。
納豆菌だけが作ることができる酵素「ナットウキナーゼ」
ナットウキナーゼは、納豆菌が作るタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)です。ほぼすべての生物はプロテアーゼを作りますが、その中でもナットウキナーゼが有名なのは、血管(血液)の中で出来た「血栓」を強力に分解することが分かったからなのです。
納豆の中に強力なプロテアーゼが含まれていることを最初に論文化したのは、澤村博士(1907年)。
その後、1925年に北海道大学の大島博士によりフィブリンをよく分解することが報告され、1950年代には兵庫農科大学(現 神戸大学)の三宅博士等により、詳細な性質や構造が報告されました。
この頃は、ナットウ・プロテアーゼ、バチルス・ナットウ・セリンプロテアーゼ(BSP)と呼ばれていました。正式な学術名は〝サブチリシン NAT〟であり、〝ナットウキナーゼ〟という名称は1980年代に須見博士が命名した一般名です。
1990年代には、東北大学の一島博士等により遺伝学的な解析が行われました。
ナットウキナーゼの効果
●血栓を溶かし血栓症を予防する効果
血栓とは血管の中に出来る「かさぶた」の様なものです。血管の中が傷つくと、血小板が集まり傷口を塞ぎます。
更に、血小板の上にフィブリンというタンパク質がネット状に覆い、血流でも流されない強固な血栓が出来上がります。
やがて、傷口が治ると血栓は溶かされて無くなります。人体の中で血栓を溶かしているのは、プラスミンというプロテアーゼです。ナットウキナーゼは、プラスミンと同じか、10倍程度強く血栓を溶かす力があります。この世の中で、最も強力な血栓溶解酵素なのです。
血管の中に傷が出来なくても、コレステロールなどが血管の内部に張り付いて細くなったり、細菌や異物があると、そこに血栓ができやすくなります。血栓は、毎日できては分解されることを繰り返していますが、加齢と共に分解しきれずに残ってしまいます。これらの余分な血栓が、心筋梗塞や脳梗塞などの血栓症を引き起こす原因となります。
●高血圧予防効果
ナットウキナーゼには、血栓溶解酵素としての働きだけではなく、高血圧予防効果も報告されています。
ナットウキナーゼがレニン(血圧を上げる作用がある物質)を分解し血圧の上昇を防ぐほか、ナットウキナーゼの分解物や納豆中に含まれる大豆の分解物(納豆ペプチド)がACE の働きを阻害し、血圧の上昇を防ぐことが報告されています。一部のサプリメントでは、この効果で機能性表示食品に認定されています。
●コレステロールを下げる効果
ナットウキナーゼは、コレステロールを下げる効果も報告されています。ナットウキナーゼの働きで血栓が分解し、血流が正常になった結果の付随効果だと考えられています。同様の効果は、冷え性の予防やむくみの予防効果などにも表れています。
この他にも、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβ(ベータ)を分解する作用や、新型コロナウイルス(Covid-19)のスパイクタンパク質を分解する働きも報告されています。
食品分野以外でも、熊本大学の眼科による眼科手術補助薬(硝子体剥離術)への利用、ミシガン州立大学による ES細胞の 3D培養への利用など、最先端の研究にも数多く利用されています。
ナットウキナーゼを摂るときの注意点
ナットウキナーゼを摂るために納豆を食べるときは、注意事項があります。ナットウキナーゼは酸や熱に弱い性質があるのです。
1)ナットウキナーゼは納豆と食酢・黒酢、キムチなどの酸性の食材を混ぜると壊れてしまう。
2)ナットウキナーゼは加熱すると壊れてしまう。
そのまま食べるのが最も良いようです。また、血栓溶解作用を期待して食べる時には、夕食や寝る前に食べるのが効果的です。血栓は明け方、つまり、人間のバイオリズムが一番低下している時にできやすいので、寝る前に摂っておけば明け方にナットウキナーゼが働いて、血栓症の発生を予防してくれるのです。
成人一人の体の中に張り巡らされている血管の長さは約10万km!なんと地球を2周半してしまうほどの長さです。血管は人体の中で、健康で長生き出来る身体づくりのための、最も重要な臓器といえるのです。ナットウキナーゼを摂って健康で長生きしていきましょう。