ストレスは免疫力に直結していた!?ストレスが免疫システムの老化に与える影響とは? |カリフォルニア大学の研究紹介

ストレスは免疫力に直結していた!?ストレスが免疫システムの老化に与える影響とは? |カリフォルニア大学の研究紹介
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ストレスが免疫システムについて与える影響を調べたカリフォルニア大学の論文

ストレスは、私たちの身体に様々な影響を与えることが知られています。今回はストレスが免疫システムに与える影響について研究した、アメリカ合衆国・カリフォルニア大学の研究論文をご紹介します。

参照

原  題 : Social stressors associated with age-related T lymphocyte percentages in older US adults: Evidence from the US Health and Retirement Study
(和訳) アメリカの高齢者における加齢に伴う T リンパ球の割合に関連する社会的ストレス要因: 米国の健康と退職に関する研究からのエビデンス

著  者 : Eric T. Klopack, Eileen M. Crimmins, et al

掲 載 誌 :Proc Natl Acad Sci U S A. 2022, 119 (25), e2202780119

ストレスが免疫システムの老化スピードを速めることを示唆

アメリカ合衆国・カリフォルニア大学の Eric T. Klopack 氏らのグループは、アメリカ合衆国の高齢者を対象に、ストレスが免疫システムに与える影響を研究し、ストレスフルな出来事、仕事の重圧、日々のストレスや差別などの経験は、免疫システムの老化のスピードを速めることが示唆されたと報告しました。

本研究では、アメリカ合衆国の 50歳以上の男女 5,744名を対象としました。まず、ストレスの状況を測るために、ストレスの多い生活上の出来事、慢性のストレス、日常的な差別、生涯の差別やトラウマを評価する質問票に回答をしてもらいました。次に、血液サンプルを採取し、フローサイトメトリー法により、抗原にさらされたことのないナイーブT細胞と、最終分化したT細胞の割合などを分析しました。

その結果、ストレススコアの高い人では、ナイーブT細胞が少なく、最終分化した T細胞が多いことが示され、免疫システムの老化が進んでいることが判明しました。この関連性は、教育や喫煙、飲酒、体重、人種あるいは民族を区分(調整)し、解析した後も認められました。

ナイーブT細胞とは、抗原と接触したことのない T細胞であり、抗原提示細胞からの刺激を受けることにより活性化され、機能分化し、病原体や異物の排除を促すヘルパーT細胞となる免疫細胞です。つまり、今後免疫細胞として働く細胞のことです。一方で、最終分化した T細胞は、既に免疫細胞として活性化し機能した細胞です。ナイーブT細胞が多いと、多くの新しい免疫反応に対応出来ることを意味し、最終分化したT細胞が多いと、新しい免疫反応への対応が出来にくいことを意味します。

ストレスがたまると、食事の質や運動量が悪くなる

また、過去の研究において、T細胞が作られる胸腺の老化は、質の悪い食生活や少ない運動量などにより加速されることが報告されています。しかし、今回の研究において、著者らは、質の悪い食生活と少ない運動量といった生活因子と、免疫老化の関連は統計的に大きいものではなかったとしています。この結果について、著者らは、ストレスを抱えている人は、食事の質や運動量が低下しがちであることを指摘しています。つまり、食事の質や運動量の低下はストレスの結果生じるものであり、ストレスを抱えることが免疫老化を加速させていることになっていると指摘しています。

免疫システムを弱める「サイトメガロウイルス」もストレスで活性化する

さらに、免疫システムを弱める要因の一つとして、サイトメガロウイルス(CMV)感染症があります。過去の研究で、社会的ストレスが CMV を活性化させ、それに対応するために免疫システムが働き、多くの T細胞が浪費されてしまっていることが報告されています。今回の研究では、CMV を抑制することで、ストレスと T細胞活性化との関連が低くなることが示されました。著者らは、慢性的なストレスにより CMV の活性化も慢性的となり、免疫システムの老化が加速することも考えられるとしています。CMV ワクチンを開発することで、免疫システムの老化を抑制できる可能性も示唆しています。

健康寿命を延ばすには、ストレスをためずに腸内環境を整えることが大事

「老化」というと、自然現象の様にとらえることが多いですが、近年の免疫学研究においては「免疫異常」、即ち〝疾病〟として考える一面が出て来ています。老化現象の一部を疾病としてとらえ、原因究明と解決策(治療法)の研究を行うことが、今後も広がって行くと期待しています。

寿命が延びるということは、人間に本来備わっている機能をより長く使わなければならないことを意味します。有限である〝機能〟を大切に、より長く使える状態に保っておくことが、「健康寿命」を「寿命」に近づけるために必要なことです。人生100年時代、ストレスを軽減し、腸内環境を整える生活を心掛けることが益々重要であることが科学的に解明されて来ています。日々心掛けて、健康な生活を送りましょう。もちろん、楽しみながら。

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