シリーズ6回でお届けする〝腸と免疫シリーズ〟第2回の〝芽胞状の枯草菌が、粘膜系免疫を強化する〟はいかがだったでしょうか? IgA抗体レベルの上昇に〝芽胞状(がほうじょう)〟の枯草菌(こそうきん)の摂取が影響するというお話でした
第3回となる本回では、今話題の〝短鎖脂肪酸〟の作用についてご紹介します。
短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)とは?
短鎖脂肪酸とは、ヒトの腸内で作られる物質で、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの総称です。
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が私達の食事をエサにして作り出します。
この短鎖脂肪酸が、重要な作用を及ぼすことがどんどん明らかになってきました。
例えば、短鎖脂肪酸にはこんな働きがあります。
短鎖脂肪酸の作用:肥満を防ぐ
肥満とは、脂肪細胞が脂肪の粒を蓄え、それが肥大化することで起こります。
それをストップさせるのが、短鎖脂肪酸の1つ「酢酸」です。
腸内で作られた〝酢酸〟は、腸から吸収され血流に乗って全身をめぐり、脂肪細胞にたどり着きます。脂肪細胞は、短鎖脂肪酸を感知するセンサーのようなものを持っているので、センサーが感知すると、栄養分の溜め込みを止めます。 さらには、神経にもセンサーがあり、感知すると全身の代謝を活性化させて、余った栄養分を消費させようとするのです。

心臓や脂肪細胞のセンサーが感知することで肥満の防止につながる
ところで、この〝酢酸〟と言う言葉、聞いたことがありませんか?
そうです、これ、私達が日々口にしている〝お酢〟なんです。
さきほど「腸内細菌が作り出す」と書きましたが、〝お酢〟なら普通に食事として摂取できますよね。
それでも「腸内で」作られることには大きな意味があるのです。 〝お酢〟を飲んだとしても、腸の前半部で血中に吸収・分解されてしまい、腸の後半部分には届きません。
一部の腸内細菌は〝エサ〟があれば、ずっと酢酸を作り続けてくれるため、その効果が維持されやすいのです。
短鎖脂肪酸の作用:大腸菌O157感染死を防ぐ
大腸菌O157は、代表的な食中毒の原因菌で、下痢や血便などを引き起こします。さらに菌が作り出す毒素が血中に入ると、重篤な合併症を発症して、最悪の場合死に至ることもあります。
腸内細菌を持たないマウスをO157に感染させると毒素が血中にまわって死んでしまいますが、事前に、あるビフィズス菌を与えておくと、感染死を予防できることがわかりました。
その原因を見つけるため、研究チームは〝予防効果のないビフィズス菌〟を与えたマウスとの違いを調べていきました。
ビフィズス菌は、40種類弱の菌の総称です。ここでは、予防効果のあるビフィズス菌を〝予防菌〟、効果のないビフィズス菌を〝非予防菌〟と呼ぶことにします。
どちらの菌を与えられたマウスも、腸内のO157の菌数や、毒素の量は変わりませんでした。
予防菌がO157や毒素を抑え込んでいるわけではないということです。
ですが血中の毒素量は、予防菌を与えられたマウスのほうが低いことがわかりました。
つまり、予防菌の方は、”何か”がその毒素を血中に移動するのを防いでいるというわけです。
そこで、両者の違いを調べたところ、予防菌を与えられたマウスの糞便中には、酢酸の量が2倍以上多いという結果でした。

血中の毒素の量は少なく、糞便中の酢酸の量は多かった
続く研究の結果、酢酸はO157によって腸内の壁が壊されるのを防ぐように働きかけ、血中に吸収される毒素量を抑えていることが示されました。

酢酸によって、O157による
腸の壁の破壊が抑えられる

O157が腸の壁を破壊して
血中に毒素が吸収されてしまう
▼
感染死
予防菌と非予防菌の違いはなんだったのでしょうか?
それは、酢酸を作るための〝エサ〟でした。
予防菌のほうが、多くの種類のエサから酢酸を作り出すことができるため、十分に腸の壁を守ることができたのです。
腸内細菌とエサ(食事)がそろってこそ、身体が守られているのですね。
短鎖脂肪酸には、まだまだ驚くべき作用があります。
次回も、短鎖脂肪酸についてお届けいたしますね。どうぞ、お楽しみに。
腸内コソコソ噂話
人間と違って、腸内細菌がいるマウスは、実験と同量のO157を与えてもへっちゃらなんだよ!
- Jpn. J. Clin. Immunol., 37 (5) 403-411 (2014)
- 亜鉛栄養治療 8 (2) 50-57 (2018)
- 腸内フローラ10の真実 主婦と生活社 (2015)