「納豆カプセル」摂取による腸内細菌叢の変動について、国際学術誌「Nutrients」に論文が掲載
佐賀県江北町健康プロジェクト、即ち、「納豆カプセル」摂取による腸内細菌叢の変動及び健康効果への影響確認試験の結果を論文化し、国際学術誌「Nutrients」の 2022年9月16日号に発表されました。
「納豆カプセル」は、江北町産の化学農薬・化学肥料不使用で栽培された大豆「ふくゆたか」を 100 % 使用して製造された納豆の凍結乾燥粉末を、ハードカプセルに封入したものであり、その製造にはオリジナルの納豆菌である「sonomono納豆菌(Bacillus subtilis var. natto SONOMONO)」が使用されていることが論文中に明記されています。
本研究は、日本人の大規模な腸内細菌叢データベースを用いて、食物摂取が腸内細菌叢に及ぼす影響について考察した初めての研究となります。「Nutrients」は、食品栄養学、機能性食品、ヒューマンヘルスなどを専門とする、オープンアクセスの査読付き英語論文誌です。
本研究の結果、男性では Bifidobacterium および Blautia が、女性では Bifidobacterium が、「納豆カプセル」を摂取した群のみで有意に増加しました。また、「納豆カプセル」の摂取が Bifidobacterium および Blautia を増加させる効果は、男女ともにベースラインの Bifidobacterium の占有率に依存することが明らかになりました。また、日本人の大規模腸内細菌叢データベースの情報から、「納豆カプセル」の摂取で変動した菌属は、糖尿病などの生活習慣病に関連する可能性が示唆されました。
原 題 : 『Fluctuations in Intestinal Microbiota Following Ingestion of Natto Powder Containing Bacillus subtilis var. natto SONOMONO Spores: Considerations Using a Large-Scale Intestinal Microflora Database』
(和訳) Bacillus subtilis var. natto SONOMONO芽胞を含む納豆粉末摂取による腸内細菌叢の変動:大規模腸内細菌叢データベースを用いた考察
著 者 : Kanako Kono, Yasufumi Murakami, et al
掲 載 誌 :Nutrients 2022, 14, 3839. https://doi.org/10.3390/nu14183839
町民205名を被験者とする大規模研究の概要
本試験には、佐賀県江北町在住の 20~89歳の成人男女 205名が参加。事前に定められた除外基準の対象者 7名を除く 198名を、「納豆カプセル」摂取群(99名)、非摂取群(99名)の 2群にランダムに分けたオープン試験としました。摂取群の被験者には、1日3粒の「納豆カプセル」を62日間に渡り摂取してもらいました。
摂取群の被験者には、摂取前、摂取後 31日、摂取後 62日の3回、便検体を採取してもらいました。非摂取群の被験者にも同じタイミングで便検体を採取してもらいました。また、採便と同時に被験者の自己申告方式により背景情報(年齢、性別、身長、体重、生活習慣、健康状態、食生活)を調査しました。また、試験期間中は毎日、チェックシートにて試験食品の摂取状態及び体重、排便の有無と回数、便の状態(量、形、色、臭い)、体調と薬剤摂取の有無、発酵食品・乳酸菌飲料及びサプリメント摂取の有無を記録して頂きました。
得られた便検体から、腸内細菌のDNAを抽出し、PCRの後、シークエンシングにより16S rRNAデータの解析を行い、属レベルの分類を行いました。
食品摂取効果の考察には、シンバイオシス・ソリューションズ株式会社が所有する腸内細菌叢データベースSymMAD(Symbiosis Microbiome Analysis Database)を用いました。本データベースは、国立研究開発法人理化学研究所の辨野特別研究室(当時の組織。現在は無し)が収集した腸内細菌DNAを一般社団法人日本農業フロンティア開発機構が解析したデータに加え、シンバイオシス・ソリューションズ株式会社が独自に研究参加の同意を得て収集したデータを合計した、日本人 23,139検体(2022年3月時点)から成るものです。SymMADは、腸内細菌叢のデータとともに被験者の疾患罹患状態や生活習慣(食生活を含む)のアンケート情報も含んでいます。
男女共に機能性のある菌が増加!腸内細菌叢の解析により得られた結果まとめ
本試験で著者らは、次の結果が得られたと述べています。
- 試験期間中の男性摂取群のα多様性は摂取前、摂取31日の値に比べて、摂取62日で有意に高かった。一方で、男性非摂取群、女性摂取群並びに非摂取群では有意な変化は認められなかった。
- 男女ともに、摂取群において、いくつかの菌属の有意な変化が見られた。
- 男性摂取群において、Bifidobacterium は、摂取前から摂取62日にかけて有意に変化し、占有率が増加していた。同様に、男性摂取群において、Blautia は、有意に変化しており、摂取前から摂取31日、摂取31日から摂取62日、摂取前から摂取62日のいずれにおいても占有率が増加していた。
- 女性摂取群においても、男性摂取群同様、Bifidobacterium は、摂取前から摂取62日にかけて有意に変化し、占有率が増加していた。
- 属レベルの解析において、男性摂取群では Blautia の存在量が有意に変化し、占有率の増加が認められたが、試験終了時において Blautia の占有率が増加しなかった被験者が一定数みられた。試験終了時に、Blautia の占有率が平均値以上に増加した者と平均値未満の者の背景調査を比較した結果、平均値以上の者は納豆の摂取頻度が高く、過去1ヶ月に摂取した発酵食品の種類(発酵した漬物、チーズ、味噌汁、納豆、麹食品、酒粕食品、酢、その他)が多かった。さらに、両者の摂取前の各菌属の存在量を比較した結果、平均値以上の者においては、Bifidobacterium の占有率が顕著に高かった。
- また、女性摂取群については、ベースラインにおいて、Bifidobacterium の占有率の高い群と低い群がみられ、低い群では Bifidobacterium が有意に増加していた。なお、両者で発酵食品の摂取頻度に差は見られなかった。
「納豆カプセル」のプロバイオティクス製品としての有用性や、肥満・高血圧症・糖尿病の予防や治療への有効性など考察まとめ
以上の結果から、著者らは、次の考察を述べています。
- 過去の研究において、大豆オリゴ糖や納豆菌の摂取によりBifidobacterium が増加することが報告されている。本研究では(摂取量の観点から、オリゴ糖の影響ではなく)Bacillus subtilis var. natto SONOMONO が生きた状態で腸まで達し、Bifidobacterium の増加に寄与している可能性が考えられる。
- 男性摂取群において、Blautia の増加した被験者と増加しなかった被験者の、ベースラインにおける Bifidobacterium の占有率の違いは、(日常生活における)納豆を含む発酵食品の摂取頻度に起因すると考えられる。
- 男性摂取群において、Blautia の増加した被験者と増加しなかった被験者の解析、および女性摂取群のベースラインで Bifidobacterium の占有率の高い群と低い群の比較により、「納豆カプセル」の摂取によるBifidobacterium の増加効果は、Bifidobacterium の占有率が低い被験者で顕著であることが明らかとなった。
- 過去の研究において、Blautia の一種の代謝活性は、Bifidobacterium の一種との共存下で活性化され、両者の間にはクロスフィーディング作用が考えられることから、Bifidobacterium の占有率が低い男性が「納豆カプセル」を継続的に摂取した場合、Bacillus subtilis var. natto SONOMONO 芽胞の効果で Bifidobacterium が増加し、その後クロスフィーディング作用により Blautia の増加に転じる可能性が考えられる。
- 一方で、女性では「納豆カプセル」摂取によるBlautia の増加が認められず、男女で摂取の影響が異なり、腸内細菌叢には性差が存在すると考えられる。
- 以上のことから、「納豆カプセル」摂取による効果は Bifidobacterium および Blautia の減少を伴うディスバイオシスを改善する可能性が高く、プロバイオティクス製品としての有用性が示唆された。
- 特に、日常の食生活において納豆を含む発酵食品の摂取頻度が低く、Bifidobacterium の存在量が少ない人の腸内細菌叢の改善に有用と考えられる。
- 大規模データベース SymMADを用いた解析の結果、男女共に肥満者は健康者に比べ Bifidobacterium の存在量が少なかった。また、男性では、高血圧者は健康者に比べ Bifidobacterium の存在量が有意に少なく、糖尿病者は健康者に比べ Blautia の存在量が有意に少なかった。このことから、「納豆カプセル」摂取による腸内細菌叢の変化は日本人における肥満および高血圧症、糖尿病の予防並びに治療に有効である可能性を示唆している。
Bifidobacterium :ビフィドバクテリウム属。和名は、ビフィズス菌。糖を分解し酢酸や乳酸を生産する菌で、ヒトの大腸に棲息する代表的な善玉菌。ヒトをはじめ、様々な動物の腸内から、約30種類が見つかっており、その内の10種類程度がヒトの腸内に棲息していると言われている。ヒトの健康に及ぼす影響については、酢酸、乳酸の生産による腸管内の pH 低下、および抗菌ペプチドの産生を介した病原菌の感染防御、病原菌の増殖抑制、その他のメカニズムを介した免疫賦活作用が報告されている。日本を含む12ヶ国における健康な人々の腸内細菌叢を比較した結果、日本人の占有率が最も高かったとの報告がある。
Blautia : ブラウティア属。糖類を代謝して酢酸、酪酸、乳酸、コハク酸などの短鎖脂肪酸や有機酸を産生する善玉菌の一種。本菌属は、2008年に、それまでの Clostridium や Ruminococcus などに分類されていた特定の菌類が本菌属として再分類された際に出来た比較的新しい菌属である。本菌の増加に関わる成分として、キシロオリゴ糖、オメガ3脂肪酸、カフェイン、RS4 レジスタントスターチなどが知られている。ヒトの健康に関連する事項として、内臓脂肪面積が低い人ほど占有率が高いことが報告されている。また、大腸がんや糖尿病などの患者では健常者に比べて占有率が低いことが報告されている。Bifidobacterium と同様に、日本を含む12ヶ国における健康な人々の腸内細菌叢を比較した結果、日本人の占有率が最も高かったとの報告がある。