腸内環境が〝免疫〟に重要なワケ|腸と免疫シリーズ①

腸内環境が免疫に重要なワケ

免疫と腸内環境〟についての論文の情報をお届けする本シリーズでは、〝腸〟と〝免疫〟の関係を明らかにしていくことで、腸内環境が免疫にとって、そして私たちにとってどれほど重要なものかをお伝えしていきます。参考にさせていただいている論文は、内容が専門的で非常に難解ですが、『腸ってすごい!身体っておもしろい!』と思っていただけるように、わかりやすく噛み砕いて、手書きのイラスト付きで解説させていただきます。

〝免疫力〟にこれまでになく注目が集まっていますが、情報が氾濫している今こそ、正しい知識や情報を身につける機会になればうれしいです。

目次

無菌マウスは、正常な免疫を得られない

腸内細菌を持たない無菌マウスは、腸のバリア機能が低下することがわかっています。具体的には、菌と戦うための生体防御機能である抗菌ペプチドの量が、通常マウスより少なかったり、腸上皮の細胞の増殖や入れ替わりが遅かったりします。

さらに、粘膜で活躍する粘膜免疫の抗体も少なく、どうやって外敵を倒すか戦略を練る〝ヘルパーT細胞〟、免疫反応を制御する〝T(ティーレグ)細胞〟も少ないことがわかっています。

これらの症状は、無菌マウスに腸内細菌を移植することで正常化することから、腸内細菌が免疫に影響していることが明らかになりました。

腸内細菌を移すと免疫が正常化

免疫細胞は腸内でどんな動きをしている?

ところで、免疫細胞は腸内でどんな働きをしているのでしょうか?
いろんな役割をもった免疫細胞たちが協力しあい、私たちの体を守っています。それは感動するほどうまくできたシステムなんです。

腸内は、消化吸収をするための絨毛(じゅうもう)がたくさんありますが、その絨毛が生えていない〝パイエル板(パイエルばん)〟という平らな部分があります。パイエル板には〝M細胞(エムさいぼう)〟という病原体を取り込む場所があります。

M細胞

パイエル板(ばん)にあるM細胞は、病原体を腸壁の中にとりこみます。

M細胞に取り込まれた病原体は、〝樹状(じゅじょう)細胞〟という免疫細胞が取り込み、体内で分解されます。
バラバラにされた病原体は、ヘルパーT細胞が〝抗原〟として受け取ります。

M細胞

M細胞は、病原体を樹状(じゅじょう)細胞に渡します。

その次に控えているのは〝B細胞(ビーさいぼう)〟です。
B細胞は、自分が捕まえていた病原体とヘルパーT細胞が持っている抗原が同じであることを確認すると活性化して抗体を作る細胞に変化します。活性化したB細胞は、〝IgA(アイ・ジー・エー)〟という抗体を作り始めます。

樹状細胞は、とりこんだ病原体をバラバラにしたあと、「抗原」としてヘルパーT細胞に提示します。

お互いに同じものを持っていることを確認すると…

B細胞は、抗体を作る細胞に変化し、IgA(アイ・ジー・エー)抗体を作りだします。

IgAは腸壁から腸の中に出ていって病原体にとりつき、病原体を動けなくして排出したり、免疫細胞に取り込まれやすくしたりして病原体から体を守るのです。

作られたIgA抗体は、腸内で病原体をやっつけます。

IgAと腸内細菌

IgAは、腸内はもちろん唾液や鼻水などにも含まれる粘膜で働く抗体で、病原体の侵入を阻止しています。唾液中のIgAが低くなると上気道感染症(風邪など)にかかりやすくなり、疲労感も強くなります。

このIgAを作り出す活性化した〝B細胞(以下〝IgA産生細胞〟と呼びます)〟が、腸内細菌と密接に関わっているのです。

IgA産生細胞は、無菌マウスの体内では著しく少ないことが観察されています。逆にIgAがうまく作れない障害を持ったマウスは、腸内細菌が異常に増加してしまいます。また、きちんと働かないIgAを多く持ったマウスは腸内細菌の構成に異常をきたすことが報告されています。つまり、IgAと腸内細菌はお互いに影響しあってバランスを保っているのです。

腸内細菌はIgA産生細胞と協力する

今回はIgAに注目して免疫と腸内細菌の関係をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
免疫システムと腸内細菌が関係するという報告はまだまだたくさんあります。アレルギーや慢性炎症を引き起こす免疫異常も、腸内細菌が関わっています。次回は〝IgAを増やす芽胞状の枯草菌〟についてお届けします。どうぞお楽しみに!

参考文献
  • 腸内細菌により免疫制御 モダンメディア  63 (2) 16-21 (2017)/長谷 耕二
  • 腸内細菌と腸管免疫 領域融合レビュー 2, e011(2013)/本田 賢也
  • 腸内細菌叢と免疫の関わり Jpn. J. Chin. Immunol., 40 (6) 408-415 (2017)/橋本 俊
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