日本人が世界一長寿な理由?諸外国と比べて「健全」な日本人の腸内細菌叢の特徴とは

日本人が世界一長寿な理由?諸外国と比べて「健全」な日本人の腸内細菌叢の特徴とは

先日、「sonomono納豆菌(納豆菌SONOMONO株)による納豆粉末」の摂取により、男女共にビフィズス菌の占有率が有意に増加し、さらに男性ではブラウティア菌の占有率が有意に増加したことがわかり、論文化されたことを報告しました。この論文の中で、ビフィズス菌、ブラウティア菌共に、日本人で占有率が高いことも報告しました。

今回は、日本人と諸外国人との間で腸内細菌叢がどのように違うかについて紹介致します。

目次

日本を含めた12ヶ国の腸内細菌叢の特徴

早稲田大学と東京大学などの共同研究チームは、日本人を含めた12ヶ国のヒト腸内細菌叢の大規模なメタゲノム解析を行い、日本人の腸内細菌叢の特徴を明らかにすると共に、国ごとの特徴とタイプを比較しています。この研究結果は、2016年3月に国際論文誌「DNA Research」に掲載されました。また、日本語による解説が、早稲田大学のホームページに掲載されています。

日本人の腸内細菌は極めて特異的

本研究では、日本、デンマーク、スペイン、アメリカ、中国、スウェーデン、ロシア、ベネズエラ、マラウイ、オーストリア、フランス、ペルーの12ヶ国、総数 861人の健常者を対象に行われました。当該研究では、被験者の糞便検体から抽出した腸内細菌叢のDNAを、次世代シークエンサーにより解析しました。このDNA配列をゲノムデータベースで検索し、菌種の同定や菌種組成等の解析を行いました。併せて、DNA配列から遺伝子を同定し、同定された遺伝子を機能データベース(KEGG)で検索することで、それらの機能解析を行いました。

その結果、12ヶ国の中で、日本人は Bifidobacterium, Blautia, Collinsella, Streptococcus, Unclassified Clostridiales の 5菌種が多く、Clostridium, Alistipes, Dialister, Butyrivibrio, Unclassified Firmicutes, Methanobrevibacter smithii の 6菌種が少ないという特徴がある事がわかりました。つまり、日本人の腸内細菌叢はビフィズス菌やブラウティア等が優勢であり、古細菌が少ないということが明確となりました。

また、腸内細菌叢の菌種組成は国ごとに有意に異なっていることが明らかとなりました。この国別の特異性は、菌種組成からその被験者の出身国を推定したときの平均正答率が87%となったことから、きわめて高いことがわかりました。特に、日本人の場合は 100%の正答率となり、極めて特異的な腸内細菌叢であることが示されました。この事実は、個人の腸内細菌叢のディスバイオシスを正しく診断・評価するには、同じ国の健常者データを基準にする必要があることを示していることになります。

日本と中国は同じアジアでも腸内細菌叢の特徴が異なっていた

次に、12ヶ国の腸内細菌叢について、国レベルでの類似性を調べました。その結果、12ヶ国は次の三つのグループと特徴に分けられることが明らかとなりました。

  1. 日本、オーストリア、フランス、スウェーデン : ビフィズス菌が多く、バクテロイデスとプレボテラが少ない。
  2. ロシア、デンマーク、スペイン、中国、アメリカ : ビフィズス菌が少なく、バクテロイデスが多く、プレボテラが中程度に多い。
  3. ペルー、ベネズエラ、マラウイ :ビフィズス菌とバクテロイデスが少なく、プレボテラが多い。

この結果において興味深い点は、日本が三つの欧州国とグループをつくること、中国とアメリカが近い関係にあることです。日本と中国は地理的に近く、同じアジア人であり、食習慣も似ているにも関わらず遠い関係にあり、両国とも欧米諸国と近い関係にありました。一方で、第3グループの南米のペルー、ベネズエラとアフリカのマラウイは地理的には遠いものの、穀物類を主食とする原住民という共通性をもっていました。つまり、食事以外に、腸内細菌叢の形成に大きく影響するファクターが存在することが示唆されたと著者らは述べています。

世界一の平均寿命や低い肥満率と関連か?
日本人の腸内細菌叢は諸外国と比べて健全だった

最後に、腸内細菌叢の遺伝子を機能データベース(KEGG)で検索し、日本人が有意に多い、あるいは、少ない機能を調べました。その結果、日本人の腸内細菌叢は「炭水化物代謝」、「アミノ酸代謝」、「膜輸送」に関わる機能が諸外国よりも高く、逆に、「細胞運動性」やDNA損傷の「複製・修復機能」が諸外国よりも低いことがわかりました。

日本人の高い炭水化物の取り込みと代謝能は、より多くの短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸)、二酸化炭素、水素を生成することを意味します。短鎖脂肪酸は腸内においても有用な栄養素であり、水素は抗酸化機能を示します。また、細胞運動性の少なさは炎症反応が少ない腸内環境を示唆し、複製・修復の機能の少なさはDNA損傷の少ない腸内環境を示唆します。

以上の機能性の特徴から、日本人の腸内環境は他の11ヶ国よりも相対的に健全な状態であることを示しています。さらに、炭水化物の代謝で生じる水素は、主に酢酸生成、メタン生成、硫酸還元の三つの経路で使用されます。これら水素代謝に関わる遺伝子の量を比較した結果、日本人は主に酢酸生成に水素を使用し、他の11ヶ国は主にメタン生成または酢酸生成とメタン生成の両方で水素を使用することが示されました。

以上のように、日本人の腸内細菌叢は、生体に有益な機能が諸外国よりも多く含まれ、その総合的な有益性は日本人の世界一の平均寿命や低い肥満率等と関連することが示唆されたと著者らは述べています。

参考文献

1) Suguru Nishijima, Masahira Hattori, et al : The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness, DNA Research, 23 (2), 125–133, 2016

2) 健康な日本人の腸内細菌叢の特徴解明:早稲田大学 ホームページhttps://www.waseda.jp/top/news/39021

腸内環境・腸内細菌を詳しく学ぼう!

目次