世界初の調査!日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在する!?|シンバイオシス・ソリューションズらの研究

参照

原  題 : Sex Differences in Intestinal Microbiota and Their Association with Some Diseases in a Japanese Population Observed by Analysis Using a Large Dataset
(和訳) 日本人集団における大規模データセットを用いた解析による腸内細菌叢といくつかの疾患に関連する性差

著  者 :Kouta Hatayama, Hiroaki Masuyama, Yoshimi Benno, et al

掲 載 誌 : Biomedicines 2023, 11(2), 376  (27 January 2023),doi:10.3390/biomedicines11020376

目次

世界初!腸内細菌叢の男女の違いについて明らかにした研究

シンバイオシス・ソリューションズ(株)の畑山氏らと一般財団法人辨野腸内フローラ研究所の辨野博士のグループは、大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用い、日本人集団の腸内細菌叢における男女の違い(性差)を調査しました。その結果、腸内細菌叢には性差が存在し、それが年齢の影響を受ける可能性があることを明らかにしました。

また、同じデータセットを用いて、12の疾病と関連する可能性のある腸内細菌を男女別に調査した結果、各疾病と関連する可能性のある腸内細菌の多くは、男女間および年代間で異なることが明らかとなりました。 本研究は、腸内細菌叢には性差が存在することを、大規模なデータセットを用いて世界で初めて科学的に明らかにしたものになります。

腸内細菌叢の構成は個々人で異なり、その要因の一つとして年齢が知られています。また、性別も腸内細菌叢の構成に影響を与える可能性が考えられています。しかしながら、先行する研究によっては、腸内細菌叢における性別の影響について相反する結果が報告されていました。つまり、腸内細菌叢に性差が存在するかどうかについて、これまでは科学的に明確になっていませんでした。先行研究の相反する結果は、解析する対象集団(年齢構成)の選択の違いや、小さなサンプルサイズに影響された可能性が考えらると著者らは述べています。

日本人の腸内細菌叢を性別・年代ごとに分けて調査

本研究では、研究チームが所有する日本人の大規模な腸内細菌叢データセットを用いて、日本人集団を性別・年代ごとに分け、腸内細菌叢における性差の調査が行われました。

研究チームは、大規模な日本人腸内細菌叢データセットから、疾病に罹患していない日本人集団(男性 2,136人、女性 4,327人)を選定し、年代別に男女間の腸内細菌叢を比較しました。

「日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在 - 大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析 -」: シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 プレスリリース(2023年1月30日) より引用

本研究では、年代別に男女間の腸内細菌叢を比較するために、腸内細菌叢のα多様性解析とβ多様性解析が行なわれています。α多様性とは、一つのサンプルにおける多様性を示すものです。α多様性を解析するための指数は複数ありますが、本研究では、Shannon,Simpson,Richness(属数),Pielou の4種類の指数が用いられています。

性差が腸内細菌叢のα多様性に与える影響は年代によって異なることが示唆

その結果、20 代では Shannon,Simpson,Richness の 3つの指数が、30代では Simpson, Richness の 2つの指数が、40代では Shannon,Simpson,Pielou の 3つの指数が、50代では全ての指数で、女性が男性に比べ有意に高い値を示しました。著者らは、20代 ~ 50代では各年代によって異なる指数に有意差が見られたことから、性差が腸内細菌叢のα多様性に与える影響は年代によって異なることが示唆されたと述べています。なお、60代と 70代では全てのα多様性指数で男女間での有意差は認められなかったと報告しています。

「日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在 - 大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析 -」: シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 プレスリリース(2023年1月30日) より引用

20代~70代すべての年代で、男女間の腸内細菌叢が有意に異なることを示唆

β多様性とは、二つのサンプル間の多様性の相違度を表すものです。本研究では、β多様性を非計量多次元尺度法(NMDS)のプロットによりグラフ化しています。また、2群間におけるβ多様性の違いが有意なものであるか否かを、統計学的手法の一つである PERMANOVA により検定しています。両者の結果は、20代から 70代の全ての年代で、男女間の腸内細菌叢の構成が有意に異なることを示すと報告しています。

30代が最も男女間で腸内細菌叢が異なることが観察された

そして、男女間で違いがある腸内細菌の菌属を特定するために、ANOVA-Like Differential Expression tool(ALDEx2)を使用した解析が行なわれました。その結果、男女間で有意な違いが認められた菌属の数は 30代が最も多く、その後、年齢と共に減少する傾向が観察されたと報告しています。男女間で有意な違いが認められた菌属の数は、20代は 9菌属、30代は 23菌属、40代は 20菌属、50代は 14菌属、60代は 7菌 属、70代はゼロでした。菌属として、30代から 50代を中心に、男性では FusobacteriumMegamonasMegasphaeraPrevoteraSutterella が多い傾向が、女性では AlistipesBacteroidesBifidobacteriumOdoribacterRuthenibacterium が多い傾向が観察されました。

日本人の腸内細菌叢は性差があり、年代ごとに特徴が異なり、年を重ねると性差が小さくなる

以上のα多様性解析、β多様性解析および ALDEx2 を用いた解析の結果から、疾病に罹患していない日本人の腸内細菌叢には性差があり、それは年代によって特徴が異なることが示唆される。そして、高齢になると性差は小さくなる傾向があることが明らかになったと著者らは述べています。日本人の腸内細菌叢の構成は年齢と共に変化することを考慮すると、今回の結果は妥当なものであると考えられるとも述べられています。

「日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在 - 大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析 -」: シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 プレスリリース(2023年1月30日) より引用
「日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在 - 大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析 -」: シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 プレスリリース(2023年1月30日) より引用

疾病に関連する可能性がある腸内細菌が男女間で異なるかの調査

次に、研究チームは疾病に関連する可能性がある腸内細菌が男女間で異なるかどうかについて調査を行っています。それぞれの年代に渡って男女共に罹患者が存在する 12の疾病(潰瘍性大腸炎2 型糖尿病、胃炎、逆流性食道炎、腎臓病、肝臓病、不整脈、狭心症、緑内障、気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎)を対象に調査が行われています。

論文中では、潰瘍性大腸炎、2 型糖尿病、逆流性食道炎、気管支喘息、花粉症について、疾病に罹患していない群と比較して、存在量が多い菌属と少ない菌属が見られた年代と男女の結果のグラフが示されています。また、その他の疾病に関しても、各疾病に関連する可能性がある菌属の多くは、各年代の男女間で異なっていたと報告しています。

各疾病に関連する可能性のある菌属の中には、各年代の男女間でいくつかの共通性が見られるものもあったが、それらは年代を超えて一致する傾向は無かったと報告しています。著者らは、これらの違いは、日本人の腸内細菌叢に性差と年齢による違いが存在することに起因した可能性があると結論付けています。

また、各疾病において、それらに関連する可能性がある腸内細菌の菌属が男女で異なり、年代でも異なることは注目に値する。疾病と腸内細菌の関連性について多くの先行研究があるが、結果に関しては研究間で矛盾が見られることが多くあり、この原因の一つは、研究対象とした被験者の性別および年齢構成の違いが影響している可能性が考えられるとも述べています。

疾病に関連する腸内細菌は性別および年齢によって異なる可能性がある

最後に著者らは、「本研究の結果から、疾病に関連する腸内細菌は性別および年齢によって異なる可能性があることが示唆された。このことは、腸内細菌叢と疾病の関連性に関する研究や、腸内細菌叢をターゲットとする疾病の予防や治療のためのアプローチを研究する際は、性別と年齢を考慮することが極めて重要であることを示している。腸内細菌叢に関する研究において性別や年齢が考慮されていない場合、研究結果がそれらの影響を受けている可能性があることが見落とされてしまう懸念がある。また、そのような研究に基づいて開発された疾病の予防や治療のためのアプローチは、人によっては十分な効果が得られない可能性がある」と考察しています。 本研究成果は、腸内細菌叢と疾病の関連性に関する研究や、腸内細菌叢をターゲットとする疾病の予防や治療のためのアプローチに関する研究を大きく前進させることにつながると期待されます。

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参考文献

「日本人の腸内細菌叢には男女で違いが存在 - 大規模な日本人腸内細菌叢データセットを用いた包括的な解析 -」: シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 プレスリリース(2023年1月30日) 

https://www.symbiosis-solutions.co.jp/news/news-031/

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